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最高裁判所第三小法廷 昭和43年(オ)611号 判決 1968年11月19日

上告人

佐藤利雄

代理人

佐藤光将

被上告人

佐藤邦三郎

ほか一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人佐藤光将の上告理由第一点について。

訴はこれによる請求の当否の審判を求めるものに外ならないから、裁判所は相手方当事者からの請求棄却の申立をまつまでもなく、右請求の当否を審判し、その理由のないときには請求棄却の判決をなしうることは当然である。本件において控訴人(被上告人)が原審において一審参加人(上告人)の請求を争つていることは記録上明らかであるから、右請求について原審が控訴人の請求棄却の申立をまたずしてその請求を棄却したとしてもその手続に何ら所論の違法はなく、論旨は採用できない。

同第二点について。

上告人の本訴請求が、一審原告から一審被告に対する本件各物件の贈与を前提としていることは、その主張自体に照らして明らかであるから、右贈与の認められないかぎり、上告人の本訴各請求が排斥されるのは当然である。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、原審の認定にそわない事実に基づき原判決を攻撃するものであつて、採用できない。

同第三、第四点について。

一審原告から一審被告に対する本件各物件の贈与が認められないとする原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係およびこれによつて原審の確定した諸般の事情に照らして肯認することができる。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の評価ないしは事実の認定を非難するに帰し、採用できない。

同第五点について。

被上告人邦三郎の判断能力が所論引用の原判示のとおりであつても、直ちにこれを意思無能力とすることはできず、記録を精査するも、他に同人が全く意思能力を有しないとするに足りる資料は見当らない。したがつて、同人が意思無能力者であることを前提とする所論は採用できない。

同第六点について。

訴の提起にあたり特段の留保をつけずに保佐人の同意が与えられた場合においては、準禁治産者は、さらにその同意をうけなくても右訴訟について控訴または上告をすることができるものと解すべきところ、記録によれば、一審原告の保佐人横山辰雄は、何ら特段の留保または条件を付することなく、一審原告が本訴を提起することに同意を与えていることが明らかであるから、原審が本件控訴申立について、あらためて同人の同意がないことを考慮せずして実体判決をしたことに何ら所論の違法はない。論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(飯村義美 田中二郎 松本正雄)

上告代理人佐藤光将の上告理由

第六点 原判決は、訴訟行為をなすにつき必要な授権がなかつたので破棄を免れ得ない。

一、原審控訴人邦三郎は準禁治産者であるから、控訴を提起するについては保佐人の同意を必要とし、右同意書は記録に添附しなければならないところ、(民訴第五二条第二項)記録を精査するに本件控訴について保佐人が同意していないし、同意書も存在しない。

よつて、本件控訴は当然無効であるから控訴申立は却下すべきところ、原判決は、これをみのがして実体判決しているので、その取消を免れない。

二、原告邦三郎が訴を提起し且つ反訴を提起するについては保佐人の書面にする同意を得ているので第一審訴訟行為は有効である。そして、右同意書はいづれも、第一審東京地方裁判所に宛て作成しているので右同意書は第一審に限り同意したものと認めざるを得ないので、本件控訴提起については、改めて同意書がなければ有効な訴訟行為をなし得ないものである。

三、尤も、佐藤邦三郎の保佐人横山辰雄の昭和四一年一二月一五日付訴訟委任状によると、同人は「昭和四一年(ネ)第二一八一号所有権登記等抹消請求訴訟事件につき原告が控訴を提起するに同意すること」を弁護士蒔田太郎・高木荘八郎に委任しているけれども、右受任弁護士は同意書を作成した形跡もなければ記録に編綴されていないで保佐人の有効適式な同意があつたとは云えない。又右訴訟委任状は、形式内容から云つて敢くまでも訴訟委任状であつて、保佐人の同意書と云うことはできない。

四、又、準禁治産者であるから控訴の提起を受任した弁護士に対し、その保佐人が同意する代理権と同一弁護士に委任することは、双方代理として許されないものであるし準禁治産制度の趣旨から云つても同様のことを受任することは許されないので無効である。

五、以上のとおり保佐人の適式有効な同意書が存在しない原審の訴訟行為は無効であるから、原判決は破棄を免れ得ないものである。             <後略>

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